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【取材記事】繋がっている、世界遺産と自分の暮らし

主催:荒井崇浩
応援市民:ー

今回お話を伺ったのは、富山県南砺市五箇山地区出身の荒井崇浩さん。世界遺産に登録されている五箇山地域で、実際に合掌造りの建物に住みながら、世界遺産を守り、維持していく活動を行っていらっしゃいます。今の五箇山と、荒井さんが目指すこれからの五箇山と人の関係を教えてもらいました。

<プロフィール>
荒井崇浩さん
1978年、富山県南砺市出身。大学進学と共に県外へ。卒業後、東京で街づくりコンサルタントとして働いたのち、27歳のときにUターン。現在は村作りをサポートする会社を起こし、地域に根ざして活動している。

自然と共生する暮らしそのものが世界遺産になった

―――世界遺産の家屋が実家って、すごいです。

ちょうど自分が高校生の時に、この五箇山が世界遺産になったんです。世界遺産とはいえ、ここは自分の家だし、これはどういうことなのかな、とそこから、地域に興味を持ち始めました。大学に入学し、在学中の研究で、五箇山の色んな歴史を教えてもらったり、五箇山のお年寄りなどからヒアリングをしていく中で、「この地域でなにかをしたい」という想い芽生えました。この頃から考えていたことが元になって、「合掌の森プロジェクト」をスタートさせました。

―――「合掌の森」ってなんでしょうか。

世界遺産の五箇山、と言われたら、ほとんどの人が合掌造りの建物を思い浮かべますよね。じゃあ、合掌造りの何が認められて世界遺産になってるんでしょうか?

―――歴史があるから、ですかね。

そう思いますよね。自分は外国人の観光客をガイドすることがあるんだけど、その時に「パルテノン神殿とかピラミッドとか万里の長城とか、みんな数千年の歴史があるけど、合掌造りは百数十年程なのにどうして世界遺産なの?」と聞かれます。この質問にはどう答えますか?

―――確かに…なんで世界遺産なんでしょうか…

世界遺産を選ぶ観点のひとつに「真正性」「オーセンティシティ」があります。より本物かどうか。五箇山の合掌造りは、森とそこに住む人と共にあって、初めて真正性を保ったものとして評価されるんです。だから、合掌造りの建物一棟を守ったところでそれでは意味がない。合掌造りの背景になる森やそこへの人の関わりも守り、これからも本当の意味で世界遺産を守っていきたいという想いで、「合掌の森プロジェクト」を進めています。

―――森と住む人。どうしてそこ込みで評価されるんでしょうか。

日本は地震大国なので、建物は地震が来て壊れてしまうことが多いです。これはもう仕方のないことです。だから逆に壊れてもまた作れるような仕組みを作ってきました。例えば、伊勢神宮は20年に1度作り変えます。様々な理由がありますが、ひとつは職人たちの技術を受け継いでいくためです。ちゃんと技術が伝承されていれば壊れてもまた作ることができ、しかも作り変えることが決まっていれば、そこに使うための木も計画的に育てていくことができます。日本の自然と折り合いをつけて、うまく共生して暮らしているという背景も含めて集落が評価されているのです。

―――なるほど。「白川郷・五箇山の合掌造り集落」として世界遺産に登録されているのは、そういう背景も含まれているからなんですね。

そうですね。昔から集落では、誰でもできるけど人の力が多く必要な仕事を、お互いに「労働の交換」で手伝って暮らしてきました。例えば、除雪や、農作業、合掌造りの建物に不可欠な屋根の葺き替え作業などです。そんな「労働の交換」のことを、五箇山では「結(ゆい)」や「合力(こーりゃく)」と呼んでいて、今でもその精神で集落や合掌造りの建物は維持されています。

自然と人を繋げる「合掌の森プロジェクト」

―――「合掌の森プロジェクト」では具体的にどんなことをされてるんですか?

合掌の森を守る時に、一番合掌造りの建物に直結していてわかりやすいのは茅場だな、と思っていて、まずは茅の完全自給を目指しています。

―――茅場ってなんですか?

茅場というのは、合掌造りの象徴「茅葺き屋根」を作る「茅」を育てている場所です。茅を植えて、雑草を取り、茅を育てて刈り取って初めて、茅で屋根を葺くことができます。今、五箇山全体で2万~3万束の茅を使うのですが、五箇山で取れる茅は1万2千から1万3千束。自給率は50%くらいですね。茅をちゃんと毎年収穫し続けるためには、やはり「結」の精神のもと、人の力が多く必要ですが、五箇山の人口は減り続けているという現実があります。

―――人がいなくなると、集落として建物の背景も含めて維持していくことができなくなってしまう…。

そうですね。だから、「合掌の森プロジェクト」では新しい「結」の形を作っていきたいと思っています。具体的には、五箇山の地区外に住む色んな人達にも協力してもらいながら、残していこうと。観光客の方や、学生、様々な企業などと茅を刈ったり、屋根を葺いたりしてもらっています。応援市民制度を利用して、茅刈りに協力してくれる人を募集しての作業も行いました

―――これから「合掌の森プロジェクト」が目指す先を教えてください。

五箇山は世界遺産だから特別ということではないです。日本各地にある農山村の代表例として白川郷とともに登録されています。だから、代表として五箇山が「本物」としての形で集落を残していけるか、どのように維持していくのかはすごく大切です。しかも、山際の山村で山に人の手を入れ続けて維持していくことは、日本に住む多くの人に関わってくることです。山が維持されないと川を通して下流の地区でも、災害の危険性が増したり、水質が落ちて悪影響が出てしまいます。上流に行けば行くほど人手不足で困っていて、下流は潤っているというのが現状です。下流の人たちが上流の人たちをどれだけ想像できるか、というところがすごく大事だと思っています。自分の暮らしとのつながりを感じて、協力してもらうことを大切にしていきたいです。


世界遺産と言われると、観光地、旅行で行く先という印象を持ちがちですが、五箇山の集落の場合、それは単なる見世物ではなく、その背景も知ることで自分の暮らしとのつながっていることを知ることができるんですね。それを知るきっかけを与えてくれる五箇山での新しい「結」の形、これからがとても楽しみです。