今回は富山県南砺市の南蟹谷地区のみなさんと、富山県立大学福原ゼミのみなさんとで続けているという「南蟹谷プロジェクト」について、3人の方々にお集まりいただいて、お話を伺ってきました。学生と地域が関わっていくことで、どんなことが得られるのでしょうか。
<プロフィール>
西村 信二(左から3人目)
南蟹谷地域づくり協議会会長 南砺市南蟹谷出身。農業をしながら、会長を5年続けている。
戸成博宣(左から4人目)
南蟹谷地域づくり協議会事務局長 南砺市南蟹谷出身。教員定年退職後から公民館長を5年勤めたのち、現在の事務局長となる。
福原 忠(左から1人目)
富山県立大学教員(教養教育)神奈川県出身。約30年前から富山に住み始める。自身の専門分野は物理学。
石田 香楠子(左から2人目)
東京都出身。都内の美術大学卒業後、石彫を中心に創作活動を行う。2017年に南砺市へ移住。西村さんとは移住を決めた飲み会からの知り合いの関係。※別途石田さんについての取材記事はこちらになります。
住民と学生が協力して地域課題に取り組む
―――「南蟹谷プロジェクト」では何をやっているのか教えてください!
福原)今は大きく分けて2つのプロジェクトを行っています。
ひとつは、イノシシ対策の電気柵を設置する作業もお手伝いさせてもらっています。具体的には、田んぼのあぜ道の除草作業を軽減する取り組み。あぜ道にカバープラントとして、芝を植えることで、雑草が生えにくくしていこうとしています。
もうひとつは、南蟹谷の特産であるぎんなんに関する取り組みです。
―――なるほど。どんなきっかけでプロジェクトになったんでしょうか?
福原)そういう地域の困りごとを解決するプロジェクトをやってみないか、という話を南砺市役所経由でたまたまいただいたのです。ちょうどその頃、担当しているゼミの内容を検討し直さないと、と思っていて。お話を聞いた時、それならこれをゼミで扱えばやれば面白そうだな、と思って取り組み始めました。やっているうちに、僕自身が楽しくなってきて、続けているんです。
西村)2016年12月頃だったかな。この南蟹谷は中山間過疎地にあたるんですけど、その地域のなかで、どんな問題があるか、ということを県立大学の方や、市役所の方などと一緒に話し合ったんです。そこで挙がったのが、電気柵の設置作業とぎんなんを拾う作業が高齢化で大変になっているということでした。
福原)それと、電気柵を建てるとその周りの除草が大変という状況を解決したい、ぎんなんを使って、なにか新しい特産品を開発したい、というお話が加わって、今のプロジェクトになっています。
―――実際プロジェクトをはじめていかがですか?
西村)芝を植えたところは、雑草生えなくなりました。
福原)芝生が結構頑張っています。カバープラントは、様々な種類ややり方があって、色々な人が色々なところで試しているんですが、僕は南蟹谷と合うものを探しています。
西村)ぎんなんは、学生のアイデアでできた揚餃子が人気です。毎年秋に「ぎんなんフェスタ」というイベントをこの地区で開催するのですが、そこで学生さんにお手伝いしてもらって出店しています。
福原)去年、揚餃子は試食で用意した分はすべて食べていただきました。
西村)そう。学生さんがいると、イベントに来たお客さんから「南蟹谷にはこんなに若い子がいるんか」って言われるんですよ(笑)。やっぱり活性化につながりますね。
―――評判の揚餃子、気になります。学生さんの様子はどうですか?
福原)面白がっていると思いますよ。非常に貴重な体験だと思っています。僕が南蟹谷に一緒に来るのは、大学1年生のみの教養ゼミというゼミの学生です。教養教育としてこの体験をすることになるのです。教養教育って、僕は自分の知らないことを知ることだと思うのです。もしかしたら学生は、大学でこれから学ぶ専門的な学問とは関係がなくて、意味がないと思うかもしれないけど、今までしたことの体験をするということにすごく意味があって、これこそ教養教育だと思っています。
戸成)最初来ると、学生さんは何をやっていいかわからなくて戸惑っています。指示を受けてみんなでやっていると、知らず識らずのうちに集団的な行動ができて、まとまっていくんですよね。こういう共同作業体験みたいなものは、これから生活していくためにすごく重要なことだと思います。今の子どもたちは、傍観者のように見ているだけで動かない子も多いと思うのですが、ここに来たら動かざるを得ないから(笑)。
―――学生さんを受け入れる地域の方としてはどうですか?
そう西村)最初は少し教える部分はありますが、若い人はとにかく飲み込みが早い。何をすればいいか、感覚がだんだんわかってくるのでしょうね。よく動いてくれています。
―――地域の人と学生と関わるときに、なにか気をつけていることはありますか?
戸成)ステップを踏むっていうのは大事だと思います。突然来て最初から「これをこうやって!」というんじゃなくて、色々話し合ったり意見交換をした上で、次来た時はこれをやろう、と。そうすることで、学生さんも心の準備ができるんじゃないかな、と思います。こちらも、話をすることで、学生さんがこういうことは知らないんだとわかるので、丁寧な教え方ができますね
西村)あとは、とにかく仲良くすることだね(笑)。
学生と、学生の地元というわけでもなく、大学からも離れた地域の人が、こうやって関わることはとても重要なことだなと感じました。学生は大学での座学では学べないことを学びながら、地域としては若い人の力を借りて、地域の問題解決にアプローチできる。この良い関係がこれからも長く続くと良いなと思います。